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雪のように白い肌やしっとりと濡れた黒髪を見ていると、まるで生きているかのような錯覚を起こしそうだ。
そのあまりに精巧な作りを見ていたら、このまま放置するのはなんだか悪い気がしてくる。
仕方なく僕は予想以上に重たい少女のマネキンを引きずり、祖父の別荘の屋根の下まで移動させた。
体の雪も払ってやると、彼女の半袖から覗く腕が寒そうで、馬鹿なことだとは思いつつも僕のコートをマネキンの肩に掛けた。
「僕にはもう必要ないし、それ君にあげるよ」
これでマネキンが恩返しに来たらまるで傘子地蔵だなんて考えながら、僕は鍵を開けて別荘の中へと入った。
* * *
まだ少し水の残るコップを流しの中に置くと、僕は何故か足音を忍ばせてリビングを出る。
軋む階段を登ってすぐ右手のドアを開け、古い建物特有のカビのような臭いが充満した部屋に入った。
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