第2章 マイロイド

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 彼女の名前は杏子、というらしい。彼女がここで暮らすことになった日に教えてもらった。  彼女はどうも動いている方が好きなようで、僕がしなくていいと言っても掃除や洗濯、料理などをしてくれるため、つい甘えてしまっている。  自殺に失敗して目が覚めた時に用意してあったカップ麺や灯油も、僕が眠っている間に彼女が徒歩で買って来たらしい。  コートが暖かかったから全然大変ではなかったと、笑って言った彼女を思うと胸が苦しくなった。 「祐さん?」  いつの間にか満タンに灯油の入ったタンクを持った杏子が、僕の隣で不思議そうに首を傾げて僕を見ていた。  考え始めると周りが見えなくなるのは悪い癖だな、これで何回あいつに怒鳴られたことか。  なんでもない、と呟くように言ってタンクを受け取り、再び暖かい読書空間を確保するべくストーブの中にタンクを滑り込ませた。
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