第1章 別荘

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 車で走ること一時間、フロントガラスにぶつかる雪が密度を増し始めて、少し来たことを後悔し始めた頃。  僕の目は白い壁の向こうに、目的地であるもう何年も使われてない祖父の別荘を見つけた。  やはり季節が季節ならば別荘地は賑わうのだろう、ここへ来る途中にはスーパーやコンビニなどもあり、充分に生活出来る環境だったことに落胆を覚える。  せっかく気合いを入れて会社を無断欠勤してきたというのに、なんとなく気が抜けてしまった。 「それにしても寒いな……」  雪に埋もれた駐車場に車を停めて、管理人さんからもらった簡易な地図を頼りに道無き道を進む。  左手のボストンバックは大して重くも無いくせに、寒さでかじかんだ手は早々に限界を訴え始める。  軟弱者めと自分を罵倒する上司の顔がふと脳裏に浮かび、思わず自嘲的な笑みを浮かべた。
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