第2章 マイロイド

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「見つからないんです……昨日の夜は確かにポケットに入れてたのに、さっき掃除してる時に無いことに気付いて」 「……ちょっと待って、何が?」  余程慌てているんだろう、彼女はやたら早口だった上に肝心な部分を伝えることを忘れている。  僕に指摘されてそのことに気づいたのか、彼女は手で楕円を作りおろおろと言った。 「このくらいの大きさの、橙色をしたリボンなんですが……見てませんか?」  そういえば今朝彼女を起こしにこの部屋に来た時、そんな感じのリボンが床に落ちていた。  服装もシンプルで装飾品など一つもつけていない彼女がリボンを持っていたことに少々驚いたから、強く印象に残っている。  まだぼんやりとしていたからはっきりとは覚えてないが、確か無くさないように―― 「机の上に置いたけど……」  どう見たってそこには橙の欠片も無く、見るからに肩を落とした杏子を見ていると、なんだか申し訳なくなってくる。
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