第2章 マイロイド

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 言った瞬間から後悔する。マスターについては彼女も触れて欲しくないだろうし……僕はこの不愉快な感情の正体を知っていたから。 「はい! マスターが私に買ってくださったんです!」  でも彼女が今までに見たことが無いくらい、嬉しそうに笑うから。愛しげに橙色のリボンを見つめるから。 「そっか」  僕はこの橙色というやつが大嫌いになってしまった。 「とりあえずリボン洗っておいで」  こくんと頷いて部屋から走り出て行く彼女を見送って、何故あのスペースにリボンが落ちていたのか検証するべく、机が接している壁を軽く押してみる。  すると湿気の影響か、壁はべこっとたわんで机との間に数センチの隙間を作った。 「見つからなかったら……」  彼女は酷く悲しんだろうけれど、僕はもしかしたら……密かに喜んでしまったかもしれない。  そうならなくて良かった。間違いなくそう思うけれど、やっぱり胸のむかつく感じは消えない。
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