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僕は嫉妬しているのだ。あのリボンに、あのリボンの贈り主に。彼女を捨てた今でさえ、彼女にとって唯一無二の存在である顔も知らない誰かに。
そして悪いことに僕は気付いてしまった。マスターについて話したくなかったのは彼女のためではなく、僕のためだということを。
彼女にマスターの話をすることで、僕は彼女が傷つくことより自分が傷つく心配をしていたんだ。
苦々しく思っていると、ふとあのノートのことを思い出し、再び机の下に潜って取り出す。
深緑色の和紙で出来た表紙には、『稲葉哲雄』と達筆な祖父の名前が並んでいた。
「宝箱……」
このノートが宝なのだろうか。何の気なしに開いたページに、僕の目は凍り付いたように動けなくなってしまう。
そこには一枚の新聞の切り抜き――僕の父と母が亡くなった交通事故についての小さな記事が挟まれていたからだ。
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