第3章 僕

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 物心ついた頃には既に両親なんて存在はいなくて、祖父母と3人で暮らしていた。  祖父は怒ると怖かったが、叱った後はしわくちゃの広い手で撫でてくれた。優しい祖母の笑顔が好きで、僕が一生懸命にした話に笑ってくれるのが嬉しかった。  同級生が何を言って来ようが毎日毎日が本当に幸せで、自分に両親がいないことなんて気にしたことは無かった。無かった、のに。 「祐人、ちょっと来なさい」  祖母が肺炎で入院してから一週間くらいしたむし暑い日の夜、スイカを食べていた当時高校2年生の僕に祖父はそう声をかけた。  思えば祖父は祖母が入院したことで、僕の将来だとかそういったものに不安を覚えたに違いない。  だから、きっと。避けていたわけではないが、それまで話さなかった両親の話なんか始めたんだろう。  墓参りには毎年行っていたし交通事故だってことくらいは知っていたから、何を今さら……と最初は思った。  でも祖父の話は、僕の考えていたものとは全く違っていたんだ。
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