第3章 僕

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 僕と祖父に血の繋がりは無かった。いや正確に言えば父にも母にも無く、僕が今まで家族だと当たり前に思っていた人々は、僕にとって赤の他人だった。  母は子供の出来にくい体だったため何年経っても子宝を授からなかったが、どうしても子供が欲しかった両親は施設から幼児を引き取ることにしたらしい。  そうして稲葉家にやって来たのが、その時は2歳だった僕。そう聞かされた僕の頭はやけに冷静で、ああそうなんだと人事のように感じていた。  ぱらりと祖父のノートをめくる。日記として使っていたらしいそのノートには、当時の僕の様子が綴られている。 『8月16日、あの子に雄介と香奈子さんのことを話した。自分が実子ではないと知っても彼は何も言わなかった。正直、話すべきではなかったのかもしれないと後悔している』 「後悔するくらいなら、なんで話したんだよ……」  杏子を寝かせた後、自室の椅子に腰掛けて読み始めたが……早くも読み切る自信が無くなってきた。
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