第3章 僕

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 あの夏の日以来、祖父は両親のことを少しずつ懐かしそうに話してくれるようにはなったが、僕が一番知りたかったことは話してくれなかった。  祖母が家に帰って来ることなく逝ってしまってからの祖父はあまりに痛々しくて、僕はすっかり問う勇気も機会も失ってしまったし。  だからこの日記を読めば何かわかるんじゃないかと思った。そうして少し罪悪感を覚えながらもページをめくったのだが。 『10月9日、高校を卒業したら就職すると祐人が言い出した。進学しなさいと言っても頑として聞き入れようとしない。この頑固さは雄介譲りだろうか』  日記が始まっていたのは僕が中学生の頃からで、僕が最も知りたかったことは書かれていなかった。  日付が飛び飛びの日記には昔の僕のことばかり書かれていて――彼の行動は全て無意味だったと知っている僕にとって、読み進めることは古傷を抉るような痛みを伴った。
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