第3章 僕

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 祖父から自分のことを聞いた時は理解が追いつかなくて何も思わなかったが、あの日から数日間は眠れない夜が続いた。  自分はどうなるのだろうと考えていたのだ。何故今になってそんな話をしたんだろう、もしかして高校を卒業したら1人で暮らしていけということだろうか、と。  若い僕の想像はどんどん悪い方向へと進んだ。きっと祖父は僕のことを負担に思っていたんだ、これ以上迷惑や苦労をかけてはいけない――。 『高校を卒業したら就職する』  あれはそんな悲観的な僕が、祖父に嫌われまいと下した決断だった。高卒の学もない人間が社会に出ても、ろくな仕事には就けないだろうに。  結局、無事卒業はしたものの就職先が見つからないままに一年が経過し、僕は祖父を頼らざるを得なくなった。  祖父が起業から関わり定年まで勤めた小さな会社があり、友人でもある社長に祖父が掛け合ってくれたのだ。
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