第3章 僕

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 思わず立ち上がっていた。鼓動が痛いくらい速くなっている。まだあの机には、祖父が隠した何かがあるのだ。  居ても立ってもいられず杏子の部屋へと駆け込み、机をかじりつくように眺める。幸いスリープはまだあと5時間ほど続くから、間違って彼女を起こしてしまう心配は無い。  そもそもおかしいと思うべきだった。祖父があんなすぐに見つかってしまうような、ちゃちな仕掛けを作るはずは無いのに。  小さい頃、祖父が作ってくれたおもちゃはみんな手が込んでいて、あんなに楽しかったじゃないか。  これは宝探し。祖父が僕に残した最後のおもちゃを攻略するべく、ひとまず日記を見つけた空間を再び探ってみる。  暗くて目は頼りにならないから、かじかむ指先の感覚を頼りに板の隅から隅まで探っていく。 「あ……」  隠されたスペースの壁を滑らせていた指が止まる。何も無く平らな、押してもたわむことの無い、壁の上で。
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