第3章 僕

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 今僕が触っている壁はきっと部屋の壁ではなく、その手前にある別の板だろう。丁寧に同じ壁紙まで貼ってあるが、一切腐食していない。  しかし取っ手も見つからず押しても何の手応えも無かったため、でたらめに上下左右に揺らしてみると、板が上に10センチ程動いた。  おそらく物を入れるスペースの裏へ滑り込むようになっていたのだろう。現れた1センチも無い本当の壁との隙間に、茶色い封筒があるのが見える。  隙間にギリギリ収まる厚さの封筒をには何か固いものが入っており、取り出すのに少し手間取ったが何とか引き出して机の下から出た。  彼女の部屋のドアをそっと閉め、窓から入ってくる弱い月の光に封筒を晒すと、そこには祖父の字で「祐人へ」と書かれていた。  祖父は僕がここへ来ることを知っていたのか? ただ折られただけの封筒の口を開く指が、どうしても震えてしまう。
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