第3章 僕

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 中には何枚かの便箋と写真が入っており、ひとまず薄茶色の便箋を取り出して広げる。  息が止まった。祖父の字が並ぶその古い紙切れに書かれていたのは、紛れもなく今の僕に対する言葉だったから。 『祐人へ。お前は賢い子だから、きっとこの手紙を見つけてくれると信じている』  胸がどきどきしている。もう聞けないと諦めていた答えが、きっとこの中にあるのだ。見たいが、少し怖くもある。  とにかく腰を落ち着けて読もう。時間はたっぷりとはいかないものの、充分にあるのだから。  僕は自室に戻り部屋の電気を付けて、椅子に腰掛け深く深呼吸をしてから再び祖父の言葉に耳を傾けた。 『私の死後は遺言通りになっているだろうか。遺産のほとんどがお前の手に渡るよう配慮したが、お前のことだから強欲な親戚たちに奪われてしまわないか心配している』  葬式後に明らかになった祖父の遺言には驚かされた。養子でしかない僕への配分を聞いた、親戚たちの顔が忘れられない。
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