第3章 僕

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『会社のことだが、お前があまり良い状況にいないことは知っている。辛かったら辞めなさい。私に負い目を感じる必要はもう、無いのだから』  心臓がどくんと跳ねた。やっぱり気付いていたのか。会社のこともそうだが、僕が働こうとした理由を。 『私からあの話をされて、血の繋がりが無いことを気にしたんだろう。お前は優しい子だから、私に恩返しでもしようと思ったんだろう。全く馬鹿な子だ』  馬鹿ってなんだよ。だって申し訳ないじゃないか。あんたの息子夫婦は逝ったのに、他人の僕があんたに育てて貰ったなんて。どれだけ、苦労かけたことか。 『きっとお前は勘違いをしている。私たちがお前を引き取ったのは、義務感でも同情でも何でも無い』  ずっと知りたかったんだ。どうして僕を引き取ったのか。養子として半年も両親と過ごせなかった僕を、赤の他人である僕を。
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