第3章 僕

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 いつの間にか薄暗い森の向こうで、鳥が鳴き始めていた。僕は滲む視界を拭って、封筒から数枚の写真を取り出す。  仏壇と、大学生の時に両親が撮った写真でしか知らなかった親の顔が、そこにはあった。  まだ綺麗な祖父の家の前で、僕を抱いている父。寝ている僕の頬をつついている母。僕と積み木で遊んでいる祖母。僕を膝に乗せている祖父。  みんなみんな笑顔だった。そこに写る姿はどう見てもごくありふれた家族の姿で、愛情に満ち溢れていた。  ああ、やっぱり僕は馬鹿だ。どうして気付かなかったんだろう、どうして自信を持てなかったんだろう。  僕はこんなにも、愛されていたんじゃないか。 「……ありがとう」  今になって口から出てくるなんて、あまりにも遅いとは思うけど。少なくとも僕はもう、大丈夫だって気がした。  僕はもう大丈夫。だから今度は、僕が救ってあげる番だ。僕がいつかいなくなっても、彼女が泣いてしまわないように。
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