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「‥‥なに?だれ?」 精一杯出した声で麻衣は男性に尋ねる。すると男性は今まで笑みを浮かべていた瞳を開き、口元は微笑んだまま麻衣を見る。 「なんもあらへん。ただの通りすがりや。驚かしてしもたみたいですんまへん。」 この通りと、両手を合わせて謝罪をする姿に悪意は感じられなかった。男性をよく見ると夏だからであろうか下駄を履いており、見慣れないラフな服装をしていた。また頭髪は色素が薄く左目が隠れるほど前髪が伸びている。襟足は多少長い程度で、全体的に手入れはされていないようである。顔立ちはしっかりとしていて23歳前後であろうか、という印象をうけた。麻衣は観察している間にぴたりとも動かない男性を見て声を掛ける。 「いや、そんな、私の方こそひどく驚いちゃってごめんなさい」 麻衣が少し頭を下げると長い髪がふわりと宙を移動する。自分が許して貰えたことがわかると男性は手を下ろし麻衣の姿を見る。 「えらい長いことここでがっくりしとったさかい、どうしてしもたんかなーと思って見とってん。それが顔上げたらべっぴんさんやからつい声がでてしもて」 男性は笑うとつり上がった目が細くなり微笑んだ口元から八重歯が覗く。
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