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午後十時半。
この時刻が僕らの就寝時間である。自動的に部屋の電気が消え、ゆっくりと慎重に進みながら、ふかふかのマイベッドに到着した。
「豆電球点けてください!」
と、真っ暗になった部屋の隅で一人の女の子が叫ぶ。
その要望に応えるかのように、豆電球が点いた。
人間の声に自動的に反応して点いた――なんてSFチックなことは残念ながらない。単に、この部屋に設置されたビデオカメラを通して、別室で待機している僕らの雇い主の宮野という男が素直にその要望に応え、手動で豆電球のスイッチを入れただけに過ぎない。
ちなみに、僕らの居るこの部屋は何から何まですべて宮野が管理しており、僕らにはあまり自由がないことだけは現時点で理解してくれるとありがたい。
「まったく……」
ぶつぶつと文句を言いながら、オレンジ色に光る豆電球の明かりを頼りにゆっくりと彼女はベッドへと移動していく。
彼女の名前は赤嶺沙希。同年代であり、同居人であり、仕事仲間でもある。
そして今からその仕事をしに、寝ようとしているところだ。
もう理解した人もいるかもしれないが、僕たちは寝ることが同時に仕事をすることに繋がるのだ。
ブラック企業でありえないくらい長時間働かされている人からしたら、羨ましがられる仕事なのかもしれない。しかし、これが結構楽ではないのだ。
僕らの仕事は、夢を管理すること。いや管理というより、監視、記録、そしてその夢での問題を解決することと言った方が適切だろう。
『準備できたー?』
という音声が、ベッド横の机に置いてあるヘッドホンから聞こえてきた。
ヘッドホンがあるのはわかったもののゴーグルの行方がわからない。一体どこにいったのやら。
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