第1話  スタート

3/10
前へ
/387ページ
次へ
 太一の席は窓際の一番後ろで、かなりサボれる席だろう。  茶色がかった少し長めのサラサラとした柔らかい髪が風に揺らされる。  残念ながら窓から入ってくる風は生温く、気持ちの良いものではない。  今日は7月21日、終業式で昼前には下校という事なので、気温30℃を超えるかなりの暑さだが、夏場は常時稼動している筈のクーラーも今日は全くの無音で風は出ていない。  早く下校だからクーラーを使わない理由になるのか? と、疑問を抱く所だが、少年、太一はそんな事どうでも良いから早く帰りたい気持ちに駆られていた。  面倒くさがりだから? 明日から夏休みだから?  ……まぁ、それもあるだろうけれど今日はもっと違う物に胸を躍らせているのである。  ワクワクして、ニヤケが止まらない太一。  「という事で、明日からの夏休み、絶対にハメを外さないように過ごすように! それじゃ、もう帰っていいぞ。 しっかり宿題やっとけよー」  不意に先生の声がして、太一は普通の顔に戻す。  「起立」  日直の人が号令を掛け、生徒全員がゆっくりと立ち上がった。  「気をつけ、礼」  キーンコーン……カーンコーン……――。  日直の号令と同時にチャイムが鳴り響き、待ちに待った放課後となった。  
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

721人が本棚に入れています
本棚に追加