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このターゲットに対して、遠距離からの攻撃ばかりでは埒(らち)があかない。
ローウェンは飛行術に切替え、ターゲットに近付いた。ズルイ、というケンタウロの声が聞こえたが気にしない。前方に回り込み、怯(ひる)んだターゲットを叩き落とす。
と、手応えは感じられなかった。拳に布が絡まり、ローウェンの動きを封じる。着衣か何かか。
何かが袖の辺りを掠(かす)めていった。
「ケンタウロ!」
遅れて駆け付けたケンタウロに合図を送る。
しかし、ケンタウロは困惑した表情を浮かべていた。その瞳が紅く滲(にじ)んでいる。力を発動させている証拠だ。
しばらく辺りを伺っていたケンタウロが、やがて苦く笑いながら剣を収めた。
「見失った」
「まさか」
一瞬気がそれるのを待っていたかのように布が落ちた。
ケンタウロが踏んで押さえるが何の害もない。それがぼろぼろになった女物のショールかなにかなのはすでに分かっていた。
「どのあたりから」
「うーん、ロウが殴り付けた直後に消えた感じ」
ならばターゲットは透明なのだろうか。無い話ではない。
実際、インビジブルストーカーと呼ばれる透明の魔法生物がいるくらいだ。それならば、形が判然(はんぜん)としないのも頷ける。
しかし、ケンタウロは首を横に振った。
「どっちかって言うと散った感じが強いね。霧みたいな細かいものになってさ」
目の前にローウェンが現れたあの瞬間、ターゲットが怯んだように見えたのは体を霧状に変えるためだったのだろうか。
新しい情報が必要だ。
ローウェンは唇を湿らすと巨木を見上げた。
「さて、どうするかな」
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