ついてない夜

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      * * *    「マニみたいな人が治安を守ってるんなら、この町も安泰だね」  昨日、仕事を理由に誘いを断ったことをマニは後悔していた。  人通りの減った中央通りに立って、犯罪が起こらないよう監視する歩哨(ほしょう)の仕事。本来ならいつも通り、何も起こらずに次の担当に替わる予定だった。  しかし神様は意地悪だ。  次の担当が到着する前に厄介な男が通り掛かってしまった。  仕事を理由にしたからには持ち場を離れるわけにもいかず、このしつこい男に付きまとわれる羽目に陥っている。  へらへらとしたこの男、無理強いをしてくるなら公務執行妨害で強制排除することもできるのだが、マニの仕事ぶりを観察しているだけなのである。  話しかける機会をうかがっているだけで邪魔をするわけでもないから、邪険にもできない。 「そうでもない。昨夜は盗賊だが、怪我人が出た」 「へぇ、恐いね。盗賊同士の喧嘩かな」 「そうではないらしい。ロープでぐるぐる巻きにされた上、『私は盗み屋です。迷惑掛けてごめんなさい』と張り紙がされて詰め所前に棄てられていたから」  気をつけないと、一人歩きは危ないね、とニコニコしながら呟く男の顔を見て、マニはこの男がやったのではないかという思いに捕われた。  何の確証もない。強(し)いて言えば女の勘だ。 「そういえば、昨日一緒だった子供はどうした」  盗賊の話にはそれ以上触れず、話題を金髪の子供に転換する。どういういきさつで共に旅をしているか知らないが、あまりしたくない話題だろう。そのままケンタウロがこの場を離れてくれれば良いとマニは期待した。 「今、お使いに行ってるよ。昨日の晩、面白くないことがあったからちょっとおかんむりでね」  なぜかケンタウロが嬉しそうな顔になる。良い話題を見つけたと言いたそうな顔だ。マニは嫌な予感に鳥肌が立った。
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