ついてない夜

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 誰にでも、ついてない夜ってのはあるもんだ。やる事なす事裏目に出る。  道を譲ればドブにはまり、好物(こうぶつ)を食えば腹を下し、これだと思って指輪を贈った女はアレルギーを起こす。  大概(たいがい)そういうのは、うまくことが運んだ後に反動のように起こったりする。    誰かが言ってたっけ。  運質量保存の法則。  運の量は決まっていて、人生において良い事と悪い事は等分に起こるもんだって。  ……だからって、さぁ。  俺は泣きそうになっていた。    思い返せば今日の昼、鈍臭(どんくさ)いガキから財布をスったのが始まりだった。  スラム街の曲り角。前方不注意のガキにぶつかって。いつもの癖で相手の懐(ふところ)に手を伸ばした。  ガキの懐なんてたかが知れてる。ちょっと世の中を教えてやるだけさ。    だが。    世の中の不条理を知ったのは俺だった。
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