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「あーれはちょっとやり過ぎだったと思うんだけどねぇ」
「ケンタウロだって嬉しそうに参加してたじゃないか」
「そりゃぁ……ローウェンだけに憂(う)さ晴らしさせといちゃもったいないじゃないか」
ニコニコ顔のめがね青年としかめ面した金髪少年が、仲良く朝食をとっている。普段の宿屋の普段の光景。
なのに、他の客は彼らから距離をおいて席についている。
「でもほら、俺は暴力振るったりはしなかったし」
六皿目になる肉料理を平らげて、ケンタウロと呼ばれためがねの青年が言えば、
「言葉による精神的暴力は治りが遅いんだぞ」
八皿目になるパスタに手を伸ばしながらローウェンと呼ばれた金髪少年がやり返す。
彼らの席に人が寄り付かないのはテーブル上の食事が恐ろしい速度で無くなっていくためか、物騒な会話のせいなのか。
どちらにしろ、二人は気にする様子は無い。
すがすがしい朝の空気に妙に不釣り合いな雰囲気をかもし出す二人組。
青年の優しげに見えるグレイの瞳と、少年の端整な顔立ちは、見事に裏切られている。
朝食を終えるまでにさらに三皿ずつお代わりをしてからやっと、二人は席から立ち上がった。
朝食サービスバイキング形式の営業はもうやめようと宿の主人は誓った。悠々と宿を出て行く二人の背中を見つめながら。
これでは、とてもやっていけない。
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