1章 日常/非日常

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放課後。 いまさらながら、業後のことを何故放課後というのか、という何でもないことを考えていると、弥楽が話し掛けてきた。 「正義、正義っ! 帰りにゲーセン行こうよっ!」 屈託の無い笑み。 ……「まさか、断らないよね?」という言葉が省略されているのだろう。 <……尻に敷かれてるな> うるせぇ。 「……分かった」 そう答えると、弥楽は顔を一層輝かせて、 「じゃあ先に行ってるね!」 ガタガタッ 机に体を当てながら勢いよく駆け出す弥楽。 <元気だな~> 確かに弥楽のテンションは天井知らずだ。 <お前は低いな> ほっとけ。 しかし、弥楽のテンションが最も高いのは、ゲームが関わる時だ。 弥楽はゲームが好き。 それはゲームオタクとかそんなレベルではない。 ゲームは人生。 そんなことを恥ずかしげなく言う弥楽は、ある意味すごいのだろう。 さらに、弥楽のゲームが好き、というのは、自分がするのが好きなだけではなく、ゲームという概念がすきなのだ。 ゲームオタクの中に、設定や能力値を弄ることはおろか、攻略本を見ることをバカにする人がいる中で、弥楽は、こう言っている。 ――いいんじゃない? ――楽しみ方はひとそれぞれだし。 カッコいい、と思った。 そして、それほど好きなんだろうと思った。 他人を否定せず、自らを肯定する。 それは、御鞍弥楽のゆるぎない何かとして生き続けている。 <……ゆるぎない、ねぇ……> 悪魔は笑う。 <“正義”は、ゆるがないものなのか?> ……確かに、そうだろう。 揺らいだら、それは正義ではなくなる。 「……さてと」 俺は、ゆっくりと立ち上がる。 弥楽がひとりでゲーセンに向かったのは、俺が着くまで一人用のゲームをするためだ。 俺が来ると、弥楽は必ず俺と遊べるゲームをやる。 いつの間にか、自然とそうするようになっていた。 一度、『気を使わなくてもいい』と言おうかと思ったが、やめておいた。 弥楽は楽しそうだったからだ。 それで良いなら、それで良い。 それで良いから、それで良い。 それで良いので、それで良い。 俺はそう思っている。 ガタッ 俺は立ち上がり、真っ直ぐ教室を出ようとすると―― 「天瀬正義君」 「あなたは悪魔を信じる?」 ――いつの間にか後ろに立っていた響尾さんに、問い掛けられた。
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