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放課後。
いまさらながら、業後のことを何故放課後というのか、という何でもないことを考えていると、弥楽が話し掛けてきた。
「正義、正義っ! 帰りにゲーセン行こうよっ!」
屈託の無い笑み。
……「まさか、断らないよね?」という言葉が省略されているのだろう。
<……尻に敷かれてるな>
うるせぇ。
「……分かった」
そう答えると、弥楽は顔を一層輝かせて、
「じゃあ先に行ってるね!」
ガタガタッ
机に体を当てながら勢いよく駆け出す弥楽。
<元気だな~>
確かに弥楽のテンションは天井知らずだ。
<お前は低いな>
ほっとけ。
しかし、弥楽のテンションが最も高いのは、ゲームが関わる時だ。
弥楽はゲームが好き。
それはゲームオタクとかそんなレベルではない。
ゲームは人生。
そんなことを恥ずかしげなく言う弥楽は、ある意味すごいのだろう。
さらに、弥楽のゲームが好き、というのは、自分がするのが好きなだけではなく、ゲームという概念がすきなのだ。
ゲームオタクの中に、設定や能力値を弄ることはおろか、攻略本を見ることをバカにする人がいる中で、弥楽は、こう言っている。
――いいんじゃない?
――楽しみ方はひとそれぞれだし。
カッコいい、と思った。
そして、それほど好きなんだろうと思った。
他人を否定せず、自らを肯定する。
それは、御鞍弥楽のゆるぎない何かとして生き続けている。
<……ゆるぎない、ねぇ……>
悪魔は笑う。
<“正義”は、ゆるがないものなのか?>
……確かに、そうだろう。
揺らいだら、それは正義ではなくなる。
「……さてと」
俺は、ゆっくりと立ち上がる。
弥楽がひとりでゲーセンに向かったのは、俺が着くまで一人用のゲームをするためだ。
俺が来ると、弥楽は必ず俺と遊べるゲームをやる。
いつの間にか、自然とそうするようになっていた。
一度、『気を使わなくてもいい』と言おうかと思ったが、やめておいた。
弥楽は楽しそうだったからだ。
それで良いなら、それで良い。
それで良いから、それで良い。
それで良いので、それで良い。
俺はそう思っている。
ガタッ
俺は立ち上がり、真っ直ぐ教室を出ようとすると――
「天瀬正義君」
「あなたは悪魔を信じる?」
――いつの間にか後ろに立っていた響尾さんに、問い掛けられた。
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