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回想。
◯◯◯◯◯
昨日のことだ。
帰り道で俺は、黒コートの男に会った。
背丈は二メートルほどの大男。不自然にノッペリとした顔で、死んだような目で、俺を見ていた。
その不自然さに。
その死んだような目に。
俺は、呑み込まれた。
そして男は、凛とした声で唐突にこう言った。
<俺と契約しないか>
「……契約?」
怪しいにもほどがある。
俺は唐突に我に返り、目の前の男を見据えた。
<願いを叶えてやろう>
新手の宗教か何かだろうか、と俺は身構えた。
「……願いなんてありません」
下手に答えたらまずい。
<無いのか?>
「……無いですよ」
あなたに消えてほしい、というのはありだろうか。
すると、男は少し考える素振りをし、
<何も叶えないで欲しいか?>
と訊いてきた。
話すことを諦めたと俺は思ってしまい、そして、失敗した。
「はい。じゃあ――」
さようなら、というのを男が遮った。
<契約成立だ>
「……はい?」
<望み通り、何も叶えないでやろう>
気付けば。
男は体をグニャリ、とねじ曲げ、グチャグチャかき混ぜ、球状になっていた。
<さあ、代価を払ってもらおう>
そんな声が、頭の中に響き渡った。
◯◯◯◯◯
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