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「ここ座っていい?」
「別に」
彼女は近くの席に座り、頬杖をついた。
聞こえてきたため息。
少しの沈黙。
それすら耐えきれずに、俺は思わず口を開いた。
「な、なぁ」
「んー?」
窓の外に視線を向けたまま、彼女は適当な生返事をした。
そんなに何を見ているんだろう、と俺も同じ方向に顔を向けた。
「こんな時に、こんなとこで何してんだよ。お前」
「私はただ、好きにしたいことをしてるだけ。親もそれが一番だって言ってるし」
なんとも、彼女らしい。
ただ、したいことをするのは、世界の終わりが来ずとも、今まで散々やってきただろう。
俺は小さく笑った。
「なによ?」
口を尖らせて、俺を睨む彼女に、「いや、別に」と、また笑ってやった。
すると、ふんっと窓の外に顔を背け、すねてしまった。
なんて楽しいやつなんだか。
「それで?そういうアンタは、何でここにいるの?救世主様々が、こんなとこにいていいの?」
さっきの腹いせと言うように、刺々しい口調で俺に言った。
「実はあんまり良くない。というか、やめろよ。その呼び方」
救世主なんて、呼ぶな……。
ため息をついてから、マフラーに顔をうずめた。
嫌そうな態度を取る俺とは裏腹に、彼女は意外そうな顔をした。
それは別に、嫌がらせとかではなく、単純に俺らしくもない、とか言いたいだけだと思う。
幼馴染の考えくらい、ある程度ならわかるもので、案外あっさりと話に結びつく。
「アンタなら、こんなに楽しい展開ないとか言って、はりきってるもんだと思ってたわ」
「そんな軽いものでもないんだよ」
予想通りすぎて、逆に少し苛立ちが募る。
「有名になったのよ?いつものアンタなら…」
「だから、そんなものじゃないんだよ!!」
思わず声を荒げてしまう。
彼女は、口を閉ざした。
頭を掻き、少し落ち着かせる。
でも、気持ちは止まらず、言葉がどんどん溢れてきた。
「俺だって最初はすごいと思ったさ。でも、周りにちやほやされて、お偉い人たちは、世界を託すなんて言ってくる。わかるか。自分が何をしたらいいのかすらわからないのに、何十億という人の命を背負わされる気持ちが?こんなの、俺には重すぎる……」
「ふーん……」
喋るだけ喋った。
彼女は、間伐入れずに生返事をした。
少し、落ち着いた。
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