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「世界が終わるっていうのに、お前はすごいよ。なんか余裕があるというか、なんていうか」
「アンタだって、テレビの前で凛としてたじゃない」
「そうすることしかできなかっただけだよ」
思い出して、少し嫌になる。
とにかくかっこよくあろうとし ていた俺が、見栄を張ってしまったのが、今のこの胸のモヤの原因なのかもしれない
そう思って、更に嫌気がさす。
気持ちが悪い。
「お前のほうが、救世主に合ってたかもな」
思ったことが、ふと口に出た。
「そうかもね」
相変わらず、外を見ている彼女の口元が緩んだ。
この時の彼女は、何を考えているのか、よくわからなかった。
ただ、微笑みを浮かべていた。
俺は彼女が教室に来た時と同じように、ゆっくりと座り込んだ。
小さくなって、小さくなって、消えてしまえたら。
そう思って、できるだけ肩をすぼめた。
ふと彼女の唇が震えた。
「でも、なんて言おうと、アンタが“救世主”なんだから。他の誰でもない、正真正銘、私の幼馴染で、強がりで不器用なアンタが、ね?」
座っている俺の頭を押さえるように、わしゃわしゃと髪を強く撫でた。
何て返せばいいのかわからず、ただ彼女の成すがままに、髪をいじられていた。
「だから、やれるだけやってみなさいよ。無理なら、他の誰にもできないことなんだと、私は思う」
彼女の手が離れるのと同時に、俺も顔をあげた。
俺は、おそらくその瞬間を、どんなことがあろうと忘れないと思う。
たとえ、世界が滅んでも、忘れられない。
彼女は、ただ嬉しそうに、笑っていた。
「少なくとも、一つ、私はここに来て、願いが叶ったよ」
そうか。
なんとなく、わかった。
俺はこの時、さっきまで彼女は何を見ていたのか、初めて気がついた。
「ふーん」
俺は彼女を見て、笑ってやった。
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