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お…僕らがこの文月学園に入学してから二度目の春が訪れた。
校舎へ続く坂道の両脇には新入生を迎える為の桜が咲き誇っている。別に花を愛でるほど雅な人間ではないけど、その眺めには一瞬目を奪われる。
でも、それも一瞬のこと。
今、“俺”の頭は今年の一年を共に過ごす新しいクラスメート則ち、戦い抜いていく戦友と教室で一杯になっていた。
*
「篠塚」
玄関の前でドスのきいた声に呼び止められた。声のした方を見ると、日本なのに野生のゴリラが仁王立ちしていた。
「疲れてるのか…ルワンダじゃ、内戦のせいで絶滅寸前らしいゴリラが、こんなところに棲息してるなんて驚きました…しかも、日本語を喋っている」
「ほお…篠塚。面白い冗談を言うな、それとも眼鏡の度があってないのか?」
「冗談ですよ、ごり…西村先生」
眼鏡をあげて改めて相手の名を言う。僕の目の前にいるゴリラ改め、生活指導の鬼、西村教諭だ。目をつけられるとロクな目に遭わない。
ちなみに、あだ名は鉄人やゴリラなど色々あるらしい。
「お前、本当に申し訳ないと思うならそれなりの態度があるだろ…」
「すみません。度は合ってるんですが…」
「………反省する気はないんだな」
ため息混じりで先生はつぶやく。珍しく挑発してもキレないとは少しは知恵をついたんだな、このゴリは。
「なんか言ったか?」
「いえ、何も」
「ん?そうか」
野生の勘恐るべし…。
「あぁ、そうだ。ほら、受け取れ」
先生から渡された一通の封筒。
宛名の欄には『篠塚進(シノヅカ シン)』と大きく書いてあった。
「あ、ありがとうございます」
一応、頭を下げてながら受け取る。
まあ、計算理論上DかEクラスだろな。
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