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「あ、私そう言えば今日帰りにお父さんのとこに寄る約束してたんだった」
ふと思い出したように立ち上がった空烏に、友人の眉間が僅か寄る。
「空烏……あんた……だい」
「大丈夫」
言わんとしていることを理解した上で、空烏は笑ってその先を遮った。
「私の大事な家族だもん」
告げると、逃げるように手を振って歩き出す。友人の声が聞こえたけれど、気付かないふりをして教室をでた。
嘘。
本当は、大丈夫なんかじゃないよ。
病院の、ベッドの中、瞳を瞑ったままの父の姿も、
そばで、いつも懸命に声を掛け続ける母の姿も。
苦しくて、
見ていられない。
逃げたくなったんだ。
遠くの世界。
誰も私を
私も誰も
知らない世界
御伽噺の世界でも何でも良いから……。
「そんなこと、出来るはずもないのにね……」
自嘲気味に呟くと、空烏は学校を後にした。
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