【7人の男女と一匹】

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【建尹(だい) 21歳】 あれから一年が経った。 今日、11:20amの飛行機でパリから戻ってくるアイツ。 付き合ってるわけじゃないけど、何かあるといつもアイツと一緒にいた。 そんな関係を続けていた1年後、アイツは美容師の勉強をする為にパリへ行ってしまった。 これってただの友達なのかな? 俺にはそれが判断出来なくなってしまった。 それは、俺がアイツに惚れてしまった為だ。 それに、今更アイツにそんなことは言えないしな……。 こうやって空港で待っていることはアイツには言っていない。 アイツ、どんな表情するかな…。 飛行機が着くまであと15分程度。 「お帰り」、「久しぶり」、「びっくりした?」……、最初の一言がなかなか決まらない。 そもそも、今まで通りの完全に友達として接することが出来るのか、と考えるとそれが一番不安だ。 握り締めた掌は汗でじっとりとしている。 緊張してきた…。 【蛍(ほたる) 57歳】 あの子が生まれて25年。 未熟児として生まれてきた女の子。 小学生の時には熱湯を背中に浴び火傷をし、思春期には一ヶ月の家出、高校を中退後、通信学習を経ての大学進学、そして、明日…、あの子が結婚をする。 色々あった25年間。 一緒に泣いたこともあった。 一緒に笑ったこともあった。 あの子と過ごした25年間。 あの子と一緒に歩んできた人生は、私にとってとても大きな財産だった。 これからあの子は、私達の元を離れ、素敵な男性と新しい人生を歩み始める。 それなのに、どこかで素直に喜べない私がいる。 これは私のエゴ、母親としてのエゴなのだろう。 時間は0:00amを回った。 それは、この家であの子と過ごす時間が24時間を切ったことを指し示している。 こんな私が、佐藤 茉奈(まな)の母親として最後にしてあげられること。 それは、明日の結婚式、あの子の親として、素敵な結婚式に相応しい姿勢で臨んであげることなんだと思う。
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