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まるで入学を祝福するかのような青空や鳥の声。まるでタイミングを図ったかのようにちょうど満開の桜。
そんな理想的な入学式の条件を何一つ満たすことない土砂降りの中、私立彩坂(あやさか)高校の入学式は挙行された。
そんな状況でも、春樹の胸は希望に満ちていた、と言えば嘘になる。それも純度百%の嘘だ。
高校生活はきっとなにもかもが新鮮で素晴らしい、などといった幻想は抱いてはいなかったが、少しくらいの期待はしていた。
しかしそれも入学式当日の朝までのこと。カーテンを開けた瞬間に眼前に広がった嫌味な程の豪雨に、春樹の抱いていた希望は雨に溶けるように消えていった。
もしこの雨がものすごい酸性雨だったりしたら、どうなるんだろう?家や植物がどんどん溶けていくくらいすごいやつ。そうしたら入学式は中止かな?
そんな意味不明な現実逃避を終え、春樹は遠い目をして溜め息をついた。もちろん降っているのはそんなこの世の終わりのような酸性雨などではなく、入学式も予定通り行われるだろう。
仕方なく重い足取りで食卓へ向かうと、袋から取り出した食パンをそのまま頬張る。ジャム等に頼らずとも、素材本来の甘味で十分だ、と思いたい。決してジャムを買い忘れてしまったわけではない。
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