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シンプルで安上がりな朝食をとると、そのまま歯磨きなどの準備を始める。 歯磨きは朝食の前に、というのを聞いたことがあるが、そういう人は食後にも磨くのだろうか。だとしたら一日の歯磨き粉の使用量がそれ以外の人よりも一回分多いことになる。まったく、贅沢なものだ。 そんなどうでもいい思考に身を任せながら歯磨きを済ませ、次に春樹は部屋の壁にかけられた新しい制服へと向かった。 中学までの学ランと違い、高校の制服はブレザーだ。 それは新生活の始まりを告げているようで、当初はわずかに心踊ったのだが、結局どちらも制服である。亀とスッポンくらいの差かもしれない、と不意に思ってしまった時から、ブレザーはただの『制服その二』に格下げされた。 真新しいブレザーに腕を通す。すぐに大きくなるから、という理由で大きいめのサイズを買うのはきっと全国共通のことだろうな、などと考えながら、春樹は余った袖を煩わしそうに弄ぶ。 入学式なのだから、あまり必要な物はないはずだ。入学式のしおりと筆記用具だけを、これまた真新しいカバンに詰める。 そのまま玄関に向かうと、家で一番屈強な傘を手に取り、湿った空気の中、高校生活の第一歩を踏み出した。 「行ってきます」 最後に発したその言葉は、誰もいない家にただ虚しく響いた。
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