遺言

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その後は普通にご飯を食べて、普通に挨拶に来た人たちに対応して、普通に床についた。けれど眠れなくて、私は今じいちゃんの寝ている部屋にいる。 じいちゃんの前で体育座りで座っていると、安らかに眠っているじいちゃんが幸せそうで不謹慎だけど、笑みがこぼれた。 「私の顔はそんなに面白いかい?」 「面白くなんか無いよ。けど見てるとなんか安心するって、じいちゃん!?」 後ろに居たのは死んだはずのじいちゃんだった。目の前には横たわっているじいちゃんが居て、後ろには少しすけているじいちゃんが居る。このじいちゃんが何者なのかなんて、直ぐに分かった。じいちゃんは何故か笑顔だった。自分が死んだのにいい気なもんだ。 「やっと逢えると思ったら、嬉しくてな」 「じいちゃんさ、どんだけばあちゃんの事好きなんだよ」 自分が死んだって言うのに、この人ウキウキしてるよ。 「ははは、いいだろう!・・・・・・あの人が、あの人だけが私を受け入れ、支えてくれたんだ。それが全部無意識の内なんだから驚きだよ。それだけでよかったんだ。側にいてくれるなら友人でも私にとっては1つの癒しとして幸せだった。それなのに、私のことなんか愛してくれちゃったんだよ!それで、好きになるな、なんて無理さ」 じいちゃんは愛しそうに記憶の中のばあちゃんを辿っていっている。緩むきっぱなしの顔に、私まで嬉しくなる。 「お前には苦労かけたな」 「なに、いきなり」 ばあちゃんとの惚気話を聞かされ、薄っすら空間が明るくなってきた。壁に掛かっている時計を見れば、午前5時をさしていた。じいちゃんは進んでいく時間を惜しむように、眉間にしわを刻み目を細め、微笑む。 「私にもっと力があれば、こんな事にはならずにすんだのだ」 「じいちゃん?」 「進にばあさん、2人の死を早めたのは私だ。私自身の生も今日で尽きる。最期にお前に言っておかなければないことがある」 「なに」 覚悟していた。でも、やっぱりこれから本当の別れがあることを知っている、もう話す事も、触れる事もできないことを理解している身には、我慢という言葉は通用しない。 じいちゃんが話す前に、涙がどんどんどんどん目頭に溜まり、崩壊してしまった。一緒に出た鼻水をすすりながら、嗚咽を極力押さえようとするけど、呼吸出来ないほど喉を圧迫する。
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