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「いちこ、朝飯も食べに何してるんだ」
空けられた障子から入ってきた日の光が目をくらませる。ツキッと一瞬頭に痛みが走った。それは直ぐに消え、明るくなった視界の隅に、その光に反射して輝くものを見つけた。
今立ったら立ちくらみを起こす。膝で歩き、それに近づくと、私が取るより先にお父さんがとってしまった。
「なんだこれ、翡翠の簪か?お袋の物にしては、少し派手だが」
私は簪の種類なんて知らない。翡翠で出来たイチョウ型の簪の先には、真珠や銀細工が施されている。
「フェイク?」
家が大きなだけの普通の家に、そんな高価なものがある分けない。
「だよなぁ。お前、いるか」
髪の短い私にソレを聞いてどうする、と口に出そうとしたが、昨夜のやり取りを思い出した。
朱美さんは半漁人の親分へと大きなトンボ球が付いた簪を渡していた。それならば、これも何かに使えるのではないだろうか。
「いる!」
欲しいと言う私に、お父さんは冗談かと驚いていた。何か言われる前に私はお父さんから簪を奪い、急いで部屋を出た。
二階なんてない我が家での私の部屋は、一番奥の8畳ほどの部屋。その部屋に逃げ込むように入ると、急いで簪をたたんである万年床の下に隠した。
そして同じ速度でじいちゃんの部屋に戻ると、まだその部屋で物色していたお父さんにぶつかった。
「お前な、奪っていく事はないだろう」
「お父さん、お願い!あれ頂戴!」
土下座までする私に親父はしぶしぶ承諾し、部屋にある本を読み始めた。
やった!額痛めてまでやってよかったわ。
「親父には、人には見えない何かが見えてたんだな」
お父さんは背中を向けて、床に積んである本の中から一冊手に取りページをペラペラ捲ると、次の本へ、を繰り返していた。興味がないのかお父さんが目を通した本はどんどん横へ溜まっていく。
「お父さんはやっぱり見えないの?」
近くにあった本を捲ると、それは水関係の書物だった。河童から始まり、雨女に橋姫が絵と一緒に描かれている。件の半漁人に関するページはないかと捲っていくが、結局最後のページに到達してしまった。最後のページには小さな捺印が押されている。他の書物を見ると、それと同じ物が押されている。どこかで見たことある葉っぱの絵。小さな物だけど、何故かそれに目を惹かれる。
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