匂い

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「見えないなあ。兄貴は見えてたみたいだけど、もう死んだしな」 他にも印があるのではないか、と周りにある本の最後のページに全てに目を通した。他の本と比べ薄い本に手をかけ持ち上げると、ばさっと背表紙からページが離れてしまった。 「うわっ」 「古いからな、気をつけろよ」 こんな部屋にいたんじゃ、体壊してもしょうがないよ。 お父さんがボソッとつぶやいたが、私は目の前に落ちたページにくぎづけになっていた。そのページにも捺印が押されていた。けどそれは他の違う大きな物で、その中には“笹清”の文字があった。 ああ、そうか。今までの小さなものには笹の絵が描かれていたんだ。だから・・・・・・ 「これ、じいちゃんの本なんだ」 「ん?」 「じいちゃんって物書きだったの?」 「いや、何しているか分からない人だったからなあ。そんな事もしてたんだろう」 家族も分からないじいちゃんの情報。 じいちゃんは本当に不思議な人で、本当は人間ではなかったのではないかと考えてしまった。 それから三日後、学校はあっという間に夏休みに突入した。 相変わらずの情報収集に勤しみ、相変わらずの情報不足に挫折する日々。 「今日もダメか」 はぁ、とでっかいため息をつき、畳に横たわった。かび臭い畳匂いとまじり、なにか血生臭い臭いが鼻につく。鼻をひくひく動かすが、それがなんなのか分からない。まあ気のせいだろうと、目を閉じるとものの数秒でバタバタと忙しい足音に起こされた。お母さんかと思い、そのままの状態で障子を見ると、うるさく障子が開かれた。走っていたのは、数日前に別れたぎゅーちゃんだった。ぎゅーちゃんの顔は真っ青で、本当に血が通っている人間かと思いたくなるほどだった。走ってきたからなのか、その前なのから分からないが頬を垂れる大粒の汗に、がたがたと震えるカラダ、そしてとめどなく流れる涙。瞳は右往左往不自然に動き、焦点が合わない。 瞬時に『危険』の文字が頭を埋め尽くした。 紫に染まった唇から発せられたのは、悲痛な叫びだった。 「いっちゃん!ユリちゃんが!!」 ああ、じいちゃん。 私はこれから大変なことに巻き込まれそうです。 匂い.完
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