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「やったのは蛇姫だよ」
暫くの沈黙から突然口を開いたかと思うと、意味の分からない言葉が発せられた。
「え」
「事故を起こしたのは彼女。キミを攫ったのは水鬼といい、彼女は彼らと同じ眷属でしかない。ただ、彼女の方が力が強いから遣えているように見えるだけ」
しまった。こいつも人あらざるものか。
普通の世界で人間以外と普通に会話してしまった失敗に項垂れるが、そんな私の気持ちを知らずに男は話し続ける。
「あの女はぎゅーちゃんが嫌いだから」
「ぎゅーちゃんを好きなアイツの事が好きだから」
だから、ぎゅーちゃんが襲われる。
男は何が面白いのか口を三日月にし、笑う。
「はあ!?じゃあ嫉妬!?」
「そうだね、嫉妬だ」
今現状が面白いと言わんばかりにニコニコと表情をつくる男に、殴りたくなった。
「そいつ、何者なの」
「ぎゅーちゃんが知ってる」
「そいつは誰」
男は何故か驚いた目で私を見ている。
一番目の質問は妖としての名前。二番目の質問は個人の名前としての質問。
過去、そいつにも呼ばれていた名前があったであろう。
「それも・・・・・・ぎゅーちゃんが知ってるよ」
男がどこか苦しそうにつぶやくと、手術室のランプが消えた。開かれた扉に立ち上がると、既に隣にいた男は居なくなっていた。
ゆっくり出てきたサユリンの体や頭には痛々しさが表現される包帯が大範囲で巻かれ、酸素マスクが付けられていた。
「外傷もそうですが、なによりお腹を圧迫された事による内臓損傷の方が酷く五分五分でした。手術を行い傷を塞いだとはいえ、まだ助かるとははっきりいえません。覚悟してください」
サユリンが出てきて少し、サユリンの親御さんが到着し、執刀した先生はそう2人に警告した。母親の方は泣き崩れ、父親もまた涙を我慢しているようだったが、声には嗚咽が混ざっていた。
私はそんな2人をただ見つめる事しかできなった。コレが妖のせいなんだと、言っても今の私はただの頭のおかしい人に見えるだけ。もっと、私に知識や力があれば、これは防げたのではないのか。そう思ったら、いままでどこかで留まっていた涙が流れた。
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