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『ぎゅーちゃん、ぎゅーちゃん』とニコニコ笑いかけてくる子に、私もつられて笑い、『おはよう』と挨拶する。 この子が誰だったか、そんなことはとうに頭から消えていて、私はその子の誘いにのった。 玄関口でお母さんの声がしたけど、私はそれに軽く返事をし、目線は私の手を引く少年の背に向けられていた。もう頭はこれからのことでいっぱいだ。 私の赤い浴衣と少年の白い浴衣が、空の青に映えた。 「ぎゅーちゃん、行こうよ!」 「や、怖いもん」 「大丈夫だよ!僕が引っ張ってあげるから!」 里山の中で一番大きな木に私達は来ていた。少年は嫌がる私を置いて既に木の枝に腰掛けている。 「ね、僕だって上れるんだ。ぎゅーちゃんも大丈夫だよ」 私はその言葉を鵜呑みして、頑張って木に登ってみた。小さな窪みに足を入れ、上だけを見て登る。草履は途中で脱げてしまい、足袋は汚れてしまっている。あと少しで少年のところに届くというところで、ちいさな手が見えた。 「重いよ?」 「平気だよ。僕こう見えて力あるもん」 正直今手を放すのは恐怖でしかなかった。もし手を放して落ちたらどうしよう。掴んだとしても、一緒に落ちちゃうかもしれない。 ぐるぐるぐるぐる嫌な事ばかりが、頭の中を駆け巡る。 「やっぱりダメ!」 「大丈夫」 ダメだといっているのに、少年は大丈夫としか言わない。 「本当に本当に本当?」 「うん!」 少年は体を前に出し、私へと手を近づけた。 私は意を決して、少年の手を掴む。すると少年は、ぐっと力を入れ、私を強く引っ張った。 「わっ!」 体が幹から放れ、宙に浮いた。それは一瞬だったのかもしれないが、私には1分以上の事のように感じ、枝に乗ったとき、しがみついてしまった。 少年は泣きそうな私を慰めるかのように、丸めている背中をぽんぽんと叩く。 「ほら大丈夫だった」 「ごわ、ごわかっだ」 「あはははは!本当はもっと上まで行かなきゃいけないのに、ぎゅーちゃんは怖がりだな」 少年が指す上とは木のてっぺんで、私は無理無理無理と更に枝にしがみついた。 「ん~、じゃあしょうがないか。ぎゅーちゃん、僕の背中に乗って」 この時の私はとにかく降りたくて、私をおぶって降りるのかと思っていた。いや、普通はそう思うだろう。けれど、少年は違く、私をおぶると木を登っていった。
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