遺言

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同じ風景が過ぎていく中、里山の中で一番大きな木が見えてきた。この木に登ると、町を一望できる。実際、私も幼い頃登り、落ちた。そしてあの木から落ちて以来、私は見えてはいけないものを見るようになった。 いつも隣にいたあの子は一体誰だったのだろうか。『??くん』は。 「いちこ、もう直ぐ着くから準備してなさい」 ボーっと、思い出せないあの時の事を考えていると、お母さんが助手席から身を乗り出して、後部座席に座っている私に数珠を投げ渡した。 今日はじいちゃんの葬式。  あの事件以来、お母さんたちはじいちゃんの家に行くのを躊躇し、この街に足を踏み入れるのは9年ぶりになる。こちらへは行けなかったが、じいちゃん達が私の家に遊びに来たり、テレビ電話を通じてやり取りはしていた。元気だったじいちゃんが突然倒れたのはつい先日。意識はハッキリとしているが、やはり重大な事にのんびりとしていた生活が徐々に変化していった。 やっと取れたお父さんの休暇に併せ、じいちゃんチに行く準備をしていたそんな矢先、今朝息を引き取ったと連絡が入った。
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