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私のじいちゃんは一言で言えば変わった人だった。
古くからの迷信を信じ、何日か部屋に篭ったと思えば、家族に何も告げずに数日家を留守にし、どこかへ旅立ってしまう。ふらっと帰ってきたと思えば、にこにこと気持ちのいい笑顔を見せるときがあれば、苦痛な面持ちで何も話さずまた部屋に篭る時もあった。
そんなじいちゃんに振り回されたばあちゃんは、当たり前だが怒って家をでたときがある。しかし途中の山で道に迷い、最悪にも足をくじいてしまった。誰も通らない、暗く、険しい道に、死を覚悟したと言う。そんな時、じいちゃんがいつも家に帰ってくるようにふらっとばあちゃんの前に現れた。
―あまりにも自然に現れたから、最初は熊かと思った。と嬉しそうに笑うばあちゃんの顔が忘れられない。
『何故』と驚きに聞けば、じいちゃんは照れくさそうに、『感だ』と笑い、出て行ったばあちゃんを責めることなく、足を挫いていた事を知っていたかのようにやさしく抱え、ばあちゃんの実家へ連れて行った。
『行く家が間違っているよ』
『キミが来たかったのはここだろう?』
山を下り、暗闇の中に淡い光を放つ集落が見えるところまできた。
ばあちゃんを背中におぶり、じいちゃんは大粒の汗をかく。
『少し前まではね。でも今帰りたいと思う家は、私たちの家さ。』
ばあちゃんは笑って、じいちゃんの汗を拭いた。
その時じいちゃんは、この人、ばあちゃんを一生大事にしようと決意したという。
まあ、じいちゃんの放浪癖は直りはしなかったが、その日からばあちゃんに必ず言ってから出掛ける様になった。
ばあちゃんにそれでよかったのかと、母ちゃんが聞いた事があったが、『何だかんだ言ってもこの人は必ず私の元に帰ってくるんだって思ったら、許せちゃったのよ。』と恥らいながらじいちゃんの背を見つめるばあちゃんに、じいちゃんがうらやましくなった。
そのばあちゃんも去年亡くなり、今日は一周忌に該当する日だった。
「お義父さん、そんなにお義母さんに逢いたかったのね」
「お見合いだけど、仲のいい夫婦だったからね」
2人とも電話を貰った時は慌てていたが、今は穏やかな目をしている。
私も、タイミングを計ったんだろうな、と思ってしまう。それほど、どこか不思議なじいさんだった。
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