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その後、私は男に連れられ男の車に向かった。
途中、私の今後を案ずるように空が泣き出したが、男は来ていたジャケットを差し出してくれた。
「これで雨しのげ!車近いから走るぞ!!!」
男の小さな気遣いに、少し私の警戒心は和らいだ。
どしゃ降りの雨の中、2人必死に走った。
樹海を抜けると、そこには見たことのないようなスポーツカーが止まっている。
「おい、早く乗れ!」
そう言い、男は車の扉を開けた。
「ごめんなさい…車、ビショビショにしちゃって…。」
「気にするな、俺もビショビショだ。」
そのとき、男は無邪気な笑顔を見せた。
「フフフ、ホントだね。」
久しぶりに、笑った気がした。
「お前、名前はなんて言うんだよ?」
男は車を走らせながら問いかけた。
「田中美咲です。」
何か照れ臭くなって、私は小さな声で答える。
そして少しの沈黙の後、また男が口を開いた。
「聞かねぇのか?」
「えっ???」
「だから、聞かねぇのかって?俺の名前を。
恋人なのに名前も知らないなんておかしいだろ?」
「あ、ごめんなさい…
なんてお名前ですか?」
「鮫島慶吾」
そう言うと、男は少し悲しげな表情を見せた。
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