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麗子さんは手慣れた手つきで、私を綺麗に飾っていく。
鏡に映る私は、まるで別人のようだ。
新しい人生を歩める。
そんな気がした。
「それで、慶吾とはどこで知り合ったの?」
突拍子もない麗子さんの問い。
私は焦って、下手な答をする。
「さっ、さっきそこで!」
「えっ、なにそれ?
…まぁいっか。」
私の嘘なんかすぐに気づいたのだろうけど、麗子さんは深く聞かなかった。
そして優しい笑顔をして続けた。
「本当はね、少し安心したの。
慶吾、私と別れてからは女を暇潰しの道具くらいにしか扱ってなかったから…。
慶吾のまわりは、着飾った金目当ての女ばっかりでさ。」
「えっ、慶吾さんとお付き合いされてたんですか?!」
私は少し驚いた。
そして、麗子さんは2人が付き合っていた頃の話と、慶吾の過去の話をしてくれた。
それはとても悲しくて、慶吾のことを何も知らないと、改めて知らせた。
麗子さんの目には少し涙が滲んでいる。
麗子さんは今も、慶吾との想い出を過去には出来ていないのだと思った。
2人の契約…
それを知れば麗子さんはどんな顔をするだろうか。
私の胸の葛藤とは裏腹な沈黙。
麗子さんは悲しい作り笑顔のまま、しなやかな指先で私を飾っていった。
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