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慶吾につれられ、最上階のレストランに向かった。
予約された席は、窓際の少し隔離された場所だ。
私たちが席につくと、目の前のグラスにワインが注がれる。
見下ろすネオンの輝きを横目に、ガラスに映る彼を見ていた。
慶吾は、あの後からずっと悲しい顔をしている。
私は邪魔者。
慶吾との約束は、愛のない幻。
割り切ろうにも、割り切れなかった。
残された7日間に、彼がいなければ生きる意味などなかったから…。
やがて、料理が並べられる。
「食わねぇのか?」
浮かない顔をした私に、慶吾は話しかけた。
「あっ、いただきます。」
動揺を隠そうと食事を始めようとするが、ナイフを使う食事などしたことがなく、私は戸惑う。
そんな私を見て、慶吾はやっと笑ってくれた。
「悪かったな、まずこれから使うんだ─────。」
慶吾が笑ってくれた。
何故かそれだけで、少し幸せを感じる。
初めての感情も、揺れる想いも、不安も恐怖も。
慶吾が笑ってくれるならそれでいい。
そう想えたことが、何よりも嬉しかった。
初めて必要とされたから、私も彼を必要としたい。
「ありがとう。」
私はそう呟いた。
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