そりゃ災難だね

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  シャキ、シャキン 人差し指と中指で整えて縦に切り込んでいく、美容師の手先。 一種の芸術だと思う。 特にこの人の腕の筋肉が浮き立っている訳でも、皮膚の色素が飛びきり薄い訳でもないのに彫刻を思わせる。 「…そんな見られてると穴開きそう」 「見てるの、手先ですから大丈夫です」 「あ、そう。顔じゃないんだ」 「はい、」 「……いや…手でも穴開いたら困るわ」 「…ああ…髪切ってもらえなくなりますね」 「うん。ヤでしょ?」 「はい」 鏡越しに見つめられたので、軽く目線を合わせると私は大きく頷いてみせた。 そうすると千羽さんは、ふっと目元を緩めたまま真後ろから髪をくしゃくしゃと整えていく。 いつもの流れ。 で、この次は。 「さっきの話、不良品ばっか出てるって噂の製品を買う気にはなりませんよねってヤツ」 「え?」 「うん?あ、ワックスはどーする?」 「あーいりません」 「はいよ」 いつもの流れをちょっとだけ脱線した千羽さんを訝しく見つめているのにまったく意に介す様子もなく、流さないタイプのトリートメントを髪全体に馴染ませていく。 「不良品って、もしかして…男?」  
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