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寒気がした。
一瞬色めき立った店内に。
「どうも。」
目を雑誌に伏せたまま慇懃に返しても、鏡越しの視線が止まない。
周囲の僅かなざわめきも。
ああもう、サイアク。
雑誌から顔を上げて鏡を睨み返すと、可笑しそうに目を細めた千羽さんがいた。
そして私と目が合ったのを認めると、切ったばかりの私の髪を耳にかけながら、言った。
耳元で、私にしか聞こえないような声で。
「こういう雰囲気、嫌いでしょ?今日の20時に目の前の公園に来てくれたら、お店から出したげる」
「……性格悪いですね」
「欲しいもののためにはね、割と手段は選びません」
毒牙を抜くように澱みなく微笑まれて、私は小さく息を吐いた。
その心意気は好ましいけれど、自分が犠牲になるのとは話が別だ。
「お店から出してもらうだけ出してもらって、公園に来なかったらどうするんですか」
「佐倉さんは、そういうことできる子じゃないでしょ」
「これだけ理不尽なら話は別です」
「そうかな?」
……埒が明かないとはこのことだ。
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