電柱

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俺は電柱。 とある街の十字路に、一人(一柱)ぽつんと立っている。 俺の趣味は人間観察だ。 人間って見てると結構面白い。 毎朝毎朝「やばいっやばいっ!」って小声で言いながら猛然と走る女子高生。 毎日俺の影に隠れて、いじめっ子をやり過ごす男の子。 中でもとりわけ『お気に入り』なのは、毎日午後5時になると犬の散歩をしている姉ちゃんだ。 美人ってわけではないけれど、ご近所の知り合いっぽい人と出会った時に、 「こんにちは」 って笑顔で言うのが爽やかで、すごく……良い。 そしてその笑顔が可愛い。 (あーあ、俺が人間なら、ああいう女を彼女にするんだけどねぇ) と、やたら動物柄を着こなしたカップルに呟いてみる。 どうせ声は聞こえちゃいない。 (ま、好みは人それぞれってやつだな。) 話を戻すと俺はつまり、あの姉ちゃんが好きだ。 でもあの犬はいけ好かねぇ。 あいつは散歩の度に、俺の足にマーキングしやがるんだ! こんにゃろう! 姉ちゃんも姉ちゃんで、 「マルはこの電柱お気に入りね」 とか言ってんだから仕方ない。 .
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