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「それじゃ、また二週間後に」
彼は、私の額に優しくキスを落とすと、寂しそうに微笑みながら部屋を後にした。
居なくなった後、彼の温もりが薄くなった枕に顔を埋める。彼がよく好んで使う香水の名残が鼻を掠めて、少しだけ目頭が熱くなった。
辛いと分かっていても、この時間を、彼との会瀬を手離すことが出来ない。私は、なんて愚かな女なのだろう。
こんなつもりじゃなかった。こんな、こんな風に、彼に溺れるはずじゃなかった。
ふと、サイドテーブルに目をやると小さな包みが置いてあった。
丁寧に包装されたそれを無造作に剥がすと、チョコレートの詰め合わせが出てきた。
全くあいつは、こんなもので慰めようとしているのか。嬉しくて、少しだけ微笑んだ。
一粒摘まむと、私好みのビターチョコの味が口の中でほんのりと広がる。
その苦味を味わっていたら、脳裏に彼と出会った記憶が蘇った。
* *
私と彼が出会ったのは、一年前。小さな洋菓子店だった。
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