甘く甘く、堕ちていく。

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「いらっしゃいませー」  中は、沢山の人で溢れ帰っていた。  会社帰りの人、学校帰りの人、恋人同士の者、注文を運ぶ人。しかし何故か、お店の中は騒がしくなかった。  ピアノジャズのBGM、甘いチョコレートの香り、ゆったりと交わされる談笑。  高級レストランに居るかのような甘くて上品な空間。その全てがまさしく、「プラリネ」という世界を作っていた。 「一名様ですか?」  その一言でハッと我に返った。どれぐらい惚けていたのか、店員は心配そうな顔でこちらを見つめていた。 「あっ……ごめんなさい、ボーッとしちゃってて……一人です」 「一名様ですね。かしこまりました」  その店員はにっこりと笑った。若い男性のようで、見た目は金髪碧眼の、いかにも王子様な容姿だった。詳しい年齢は解らないが、少なくとも日本人でないことは解る。  こちらです、と案内された席はカウンター席。その向こう側を見ると、色鮮やかなまな板が敷かれていて、その上にはお好み焼きに使うようなヘラが乗っていた。 .
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