甘く甘く、堕ちていく。

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「ご注文がお決まりになりましたらお声をお掛けください」 「ありがとう。それじゃあ、ホットコーヒーを一杯下さい。ブラックで」 「かしこまりました。少々お待ちください」  店員は丁寧なお辞儀をして、奥へと姿を消した。他の店員達も丁寧な接客で、周りのお客さんもリラックスしている。  なんて素敵なお店なんだろう。店員の教育も行き届いていて、きっと素晴らしい店長なんだわ───  物思いに更けていたら、ふわっとチョコレートの匂いが強くなった。  シャッ……シャッ……  いつの間にか目の前で、パティシエ(見た目で判断した)の人がまな板で溶けたチョコレートを伸ばしていた。  伸ばしては、集めて、ボウルに戻したと思ったら、また伸ばして……  何をしているのかは良く解らない。  が、真剣に鋭く、一つのモノを磨き上げるその姿勢が、表情が。一見物静かに見えるその瞳に、心の奥底に燃え上がる、ビターチョコのような漆黒の炎を垣間見えたような気がしたのだ。 .
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