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あの授業の後、謎の痛みは無くなった。やっぱり、私の思い過しなのかもしれない。
そして、昼休み
「知華ぁ、山辺先生ってそんなに物忘れ多かったっけ」
そう、そのことが引っかかる。だって、あの先生見分けがつかないって言われる双子の櫻木姉妹が入れ替わって授業を受けようとしたのを見破ったんだから。しかも、教室に入ってきた瞬間に。
だから、私は不安に感じた。
忘れてしまわれたのではないかと。
ただ忘れられただけではなく、記憶の中から完全に消し去られたのではないかと。
幸い、ただの物忘れみたいだっただから良かった。けれど、先生の中から私という個人が消えてしまっていたら……。そう考えただけでも吐き気がした。
「知華、大丈夫。顔色がもの凄い悪いんだけど。どうする、保健室に行く」
「うん、そうする」
「それじゃ、肩貸すね」
そうして私は、美里と保健室に向かって歩き出した。
「ふう」
ため息一つ。
こんなんじゃ駄目だよね。でも、やっぱり人の中から居なくなるって考えると怖いよ。
「ちーす。知華、大丈夫か、って聞くまでもなく大丈夫じゃなそうだな」
「た、天深、何でここにいるの。授業に出なくていいの」
「平気平気。俺、美里とは違って優等生だから一時間位ポカしたって問題無いんだよ」
その台詞は優等生から限りなく遠い位置にあるんだけど……
「あー、お前、今、失礼なこと考えただろ。心配して来たのに」
「全く、心配してくれるのは嬉しいんだけど…………」
大丈夫だから、と言おうとしたけど言葉が続かない。
天深が真剣な顔で見ていたからだ。
「俺は、お前が人から忘れられるのを極端に怖がっているってことを知ってるからな。もちろん、美里も」
「そんなことないよ」
もちろんこれは嘘だ。本当は天深の言った通り怖い。でも、もしそれを認めたらもっと悪い事が起りそうな気がした。
「ま、知華がそこまで言うならそういうことにしとこうかな。でもな、これだけは忘れないでくれよ、俺と美里は何があっても知華のことを忘れたりなんかしないからな」
それだけ言うと天深は保健室を後にした。
そして、天深がいたお陰でギリギリ保っていられた虚勢が私の中から崩れ落ちて泣き出していた。
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