蜂怪奇

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 次に目を覚ましたのはいつも通りの時間だった。でも、体が重い。その上、まだ、寝たりない。  それでも、無理をして学校に向かった。天深と美里には遅れると連絡は入れておいたからゆっくり行っても問題はない。  自分の席に座るとそのまま突っ伏して眠りにつく。  気が付いた時には、私は教室に一人ぼっちだった。  あれ、今日の日本史って移動教室だったかな。そんな疑問が頭をかすめる。けれど、そんな事を考えている暇はない、とりあえず、 「急がなきゃ」  やっぱり注目を浴びるだろうな。そう思いながらも意を決して 「遅れてすいませんでした」  教室に入る。  みんなの視線が集まる。  けれど、その視線は私の予想していた種類とは似て非なるものだった。  これは、初めてその人を見るような視線だった。  あれ、おかしいよね。昨日も、そして今日も会ったはずだよね。なのに、どうして、そんな、目で見るの。 「君、名前は」 「え、名前ですか」  あまりのことに尋ね返す。 「はい、名前です」 「松谷知華」 「松谷さん、ですか」  先生が、出席簿を確認する。教室の中がざわめく。 「すいません、このクラスに松谷という生徒はいませんよ。クラスを間違えていませんか」  そう告げられた時、立ち眩みがして倒れそうになった。 「失礼、しました」  そう言って教室を後にして、数歩歩いたところで涙が零れ落ちた。そのまま膝を抱えて座り込み、声を押し殺して泣く。授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。廊下をぞろぞろと人が移動する。けれどその中の誰一人として私のことを気にも留めない。いや、違うね、気にも留めないじゃないんだ。認識されてないんだ。  それに気づいた時、私は人目を憚らずに泣き出した。
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