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ガサガサと、自分の机の前でプレゼンの後片付けをする。
今日まで沢山の苦労があって、やっと成功した。
もうオフィスには人影はなく、私一人だけ。
無機質で無遠慮な蛍光灯の光は、
なににも揺らがないで、頭上を照らす。
窓の外では、都会の賑わいの陰に身を潜めていて、見えない無数の星達と、
ゆらゆら揺れて、雲に隠れる月。
満月にはほど遠い、半月より少し欠けてる、そんな夜空。
ゆらゆら
ゆらゆら
ふと、作業の手が動いていなかったことに気付いて、一人で苦笑。
再び作業を開始すると、
ガチャリ、と静寂のオフィスに音が響く。
吃驚してパッと振り向くと、
そこに立っていたのは、先輩だった。
今日は確か飲み会で、私も後から参加する予定だった。
先輩も先に行ってるとばかり思っていた。
そんなことを考えて、言葉を発せずにいると、
いつのまにか先輩は目の前にいた。
手伝う、と一言。
お礼を言うタイミングを逃した私は、
先輩と二人、無言で作業を続けた。
二人がかりの後片付けはすぐに終わって、
ふぅ、とため息をついた。
それから先輩に向かって、感謝の言葉と供に、
頭を下げた。
ぽすん、と
頭に柔らかな衝撃
身を傾けた状態で固まっていると、
わしゃわしゃ、と
頭の上のものが動いた。
お疲れさま。
そんな声に視線だけを上にあげると、
私の頭を撫でながら、いつもはきゅっと頑なに閉じていた口を緩ませて、
逆上がりが出来た子供を誉める父親のような眼差しの
先輩だった。
よく頑張った、
なんて
いつもなら絶対口にしない言葉を私にかける。
頭の上から、先輩の四年間の感情が、苦労が
温度と一緒に伝染してきて、
ぐしゃぐしゃだ。
私はまた頭を下げて、
ありがとうございました。
そう呟いた。
先輩はなにも言わず、強く私の頭をかき回した。
窓の外の月がひときわ大きく揺らめいた気がした。
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